つながりの輪
8月コラム写真

レスポアールの南を流れる新建川沿いの桜並木では、アブラゼミが全身を震わせて鳴き声の大きさを競っています。セミは数年を地下で過ごし、地上に出てからの命は数週間しか残されていません。その間に一生懸命に鳴き、相手を見つけ子孫を残さねばなりません。人間の目から見ればあまりにも慌ただしい一生です。しかしながら、かく言う私たち人類の一生も、悠久の宇宙の時間の流れから見ればほんの一瞬でしかありません。この宇宙の中で、星々が誕生と消滅を繰り返し、単純な元素からより複雑な元素を生み出し、星間の星屑で出来たこの地球上で有機物から命の元が生成され、何億、何千万年という時間の中で、想像を絶する偶然の積み重ねの結果、奇跡のように授かったのが私たち一人ひとりの命です。私たちの一生も儚いほどに短い期間かもしれませんが、授かった命を大切に精一杯生きたいものです。
今年の夏は、普段は雨の少ない瀬戸内海地方に大雨を降らせ大きな被害をもたらしたかと思うと、熱中症で倒れる人が毎日のように報道され、気象庁が「災害」と呼ぶ、茹だるような暑い日々が続いていました。そこへ、今度は関東地方を通って西日本から九州の南へ抜けるという例年と逆のコースをたどる台風がやってきました。南西から北東へ駆け上がる例年の台風の後は、北風が台風一過のさわやかな天気をもたらすのですが、今回は、南からの湿った空気を呼び込み、蒸し暑い日が続いています。異常気象もこのように次々に続くと異常という言葉を使うことが適切か疑問になります。久山町では、幸いにもこれまで風雨による被害は生じていませんが、予期せぬ災害に備えるためには、これからは、いつでもこれまで経験したことがない状況が起こり得ることを念頭に様々な対策を考えることが求められているようです。
異常は気候ばかりではありません。急激な変化が続いている私たちの社会も、変化に変化を重ねるうちに、また変化のスピードが速すぎて、そもそも平常とは何か、私たちの社会は一体どこへ向かおうとしているのかが分からなくなりつつあります。今年の一月、イギリスで「孤独担当大臣」が新設され話題になりました。9百万人もの国民が孤独を感じているという事態に大きな危機感を抱いたのです。孤独はイギリスだけではなく今日の日本においても大きな課題の一つです。私たち人間は、まさに人と人のつながりで生きていくものです。
最近同僚から、霊長類学者で京都大学総長の山極寿一さんの「ゴリラからの警告~人間社会、ここがおかしい~」を勧められました。そこに、この問題へのいくつかのヒントが述べられていました『今一度人間が進化した場所に立ち返り、豊かで安全だったころの身体と心をふり返ってみなければならない』『これからは、人間の一人ひとりが生活をデザインする時代である』というのです。レスポアールでは、一人ひとりが社会の中で豊かに生きていくために、人と人のつながりを支え、学び合いを通してつながりの輪を広げていくことを目指してまいります。

久山町文化交流センター
センター長兼図書館長 太田隆晴